スタンプカードがあと2個で埋まるとき、人は急に通い始めます。この現象には名前がついていて、目標勾配効果と呼ばれています。
同じ10回でも、見せ方で速さが変わる
キベッツらが2006年に発表した研究では、カフェのスタンプカードを使った実験が行われました。10個で1杯無料のカードと、12個のうち2個をあらかじめ押してあるカードを比べます。必要な購入回数はどちらも10回で同じです。
結果は、2個押してあるカードのほうが早く達成されました。実際の距離は同じでも、「残りがどれだけに見えるか」が行動の速さを変えたことになります。
起点を0にしない
ここから取り出せる実務的な結論は単純です。何かを始めるとき、起点を0に置かないこと。
- すでにやっている習慣を、記録の1件目として数える
- 準備が済んでいる部分を、進捗として書き出す
- 「今日から10日」ではなく「昨日までの分を含めて12日のうち2日終わっている」と置く
嘘をつく必要はありません。すでに存在している事実を、数えていなかっただけの場合がほとんどです。
残りを小さく切ると、常に「あと少し」になる
大きな目標は、途中がすべて「まだ遠い」に見えます。そこで、区切りを細かく置いて、いつでも近い目標が一つある状態にします。
3日、7日、14日、30日。このように段階を刻むと、直近の目標は常に手の届く距離にあります。到達するたびに、次の目標が新しく近づいてきます。
達成した直後は、いったん速度が落ちる
同じ研究では、報酬をもらった直後にペースが落ちる現象も報告されています。区切りに着いた時点で、いったん張りが抜けるためです。
対策は、達成の直後に次の小さな目標をすぐ置くことです。祝ってから間を空けると、そのまま止まりやすくなります。祝う、次を出す、をひと続きにしておきます。
この効果が効くのは、進み具合が見えているとき
前提として、進捗が目に見えている必要があります。頭の中だけで管理していると、残りの距離が毎回あいまいになり、遠くも近くも感じられません。
紙のカレンダーでも、アプリの記録でも構いません。埋まった部分と、残りの部分が、同時に見える形にしておきます。
ゼロを裸で見せない
連続日数だけを大きく出す作りは、途切れた瞬間に「0」という数字だけが残ります。0は、それまでの積み上げを一つも表していないのに、いちばん目立つ位置に居座ります。
そこで、連続の隣に必ず別の数字を置きます。累計の回数、これまでに動いた日数、今週の回数。連続が0になっても、隣の数字は減りません。減らない数字が見えていることが、途切れた日に閉じないための材料になります。
「今日から」を待たない
区切りのいい日を待つと、待っている間は動かない期間になります。月曜、月初、来月、来年。区切りは便利な合図ですが、遠い区切りは先延ばしの口実にもなります。
区切りは、自分で今日に置けます。「昨日までを前の章にする」と決めれば、今日が初日です。カレンダーの都合に、開始日を預ける必要はありません。
距離を測る相手は、他人ではなく自分
なお、この考え方は他人との比較には向いていません。他人の進み具合を見ても、自分の残り距離は変わらないからです。
測るのは、なりたい自分と今の自分の間だけ。その距離が1つ縮んだかどうかだけを見ていれば、目標勾配は自分の側に働きます。
効く場面と、効かない場面
この効果が確認されているのは、主にスタンプカードのような、進み具合がはっきり見える仕組みの中でです。人生全体の目標のように、終わりが定義されていないものには、そのままでは当てはまりません。
当てはめるなら、大きな願いの下に、終わりのある小さな区間を作ります。「今週、仕事の場面で3回動く」。この形なら残り距離が数えられ、近づいた分だけ速くなります。